登場人物:シンドバッド、ユナン、ジャーファル
CP傾向:シンユナ シンジャ
308夜以降の本誌の内容+未来妄想設定のシンユナの小話詰め合わせ、その2です。
前作群の変わらず、ユナンさんをシン様の隣に置いただけで、設定でついでに適当。
【虚ろ晴れし日】 短いユナンさんの独白。 とても面白くない。
【偽りを紡ぐ者】 暗めのマギになったよ話。 わりと不穏。
【瓦解する存在】 ユナンさんとジャーファルくんが会うシリアス話(※シンジャ香ります)
【渇望した白羽根と】 ぬっるいR18。後にピロートーク。会話させたいだけ。
【虚ろ晴れし日】
とうとう選んでしまった。介入するという、引き返せない選択をしてしまった。
二度と王の器を選ぶことはしないと誓ったのに、彼からその名を聞いた時にはもう手遅れだったのだろう。
「シンドバッドさんの中に、そのダビデって奴が入ってるかもしんねーんすよ」
その言葉を聞いたとき、何かの冗談かと思った。でも彼が、冗談でそんな事を言うはずがない。情報の出所も信憑性が高すぎて、否定することも出来なかった。
やっと世界は平和になったのに。それを作り上げたシンドバッドが、自ら世界を壊すと言うのだろうか。
そんなことは有り得ない。だって……。
だって、何だ?
マギの本能がそう事実を告げる。これまで感じてきた恐怖は、それではなかったのか?
慌ててそれを否定する。
「でも、彼は、いい奴なんだ。優しい男なんだ」
優しくて、強くて、眩しくて、輝くような希望だった。マギとして何度も望んだ『争いのない世界』を本当に叶えてしまった。
それは勿論、自分の為ではない。他でもない彼自身のため。
彼は、本当に己の希望そのものになっていたのだ。
その愛しいものを失うのは、とても恐ろしかった。
「俺も知ってます! シンドバッドさんのいいところ!」
否定もせず、笑顔で頷いてくれた金髪の彼の声は、希望に見えた。
そして決心をした。
もう逃げない。
ずっとずっとこれまで逃げて、喧嘩をして、蔑み合って、絶対に相容れる事はないように見せて来たけれど。
「僕は君のマギになるよ」
今更だと笑われてしまうだろうか。
例え君が、既にマギを必要としていなくとも。
もし君が、別の存在になってしまっていたとしても。
肉が裂けて血が流れようと。
この身が炎で焼かれようと。
二度と会えなくなるとしても。
僕は君を愛してしまった。
それだけで全てが報われてしまうから。
「さあ、行こうか」
光の届かぬ天を見上げる。
ただ、君の幸せを願って。
【偽りを紡ぐ者】
「やっと俺のマギになってくれたんだな、ユナン」
「そう……だよ」
向けられた笑顔が怖くて、ユナンはつい、と顔を背ける。シンドバッドを自らの王だと認めた後も、湧き上がる恐怖は止みそうにもなかった。近づいてくるシンドバッドに足が竦む。
「嬉しいよ」
そんなユナンの恐れを知らずか、シンドバッドは一歩退こうとするユナンの腕を捕まえて、軽やかに引き寄せる。体が緊張に固まる気配を感じたが、その男は構いはしなかった。成人男性にしては細い腰を片腕ですくい上げ、顔を寄せる。
「ずっと、お前を待っていたんだ」
目と目を合わせて笑みを浮かべると、不安そうなユナンの顔が瞳に写る。
「嘘は、言わないで。シンドバッド」
「嘘じゃないさ。俺はずっとマギの存在を求めていた。知っているだろう?」
そう、ユナンは知っている。知っていながら見て見ぬ振りをしていたのだから。
ずっとずっと求められていた。ようやく受け入れて、力を貸せる日が来たのだ。その事実を、マギとして歓喜の思いで迎えるはずなのだ。
なのに何故だろうか。シンドバッドの顔は優しい光るような笑顔なのに、とても胸が痛む。
「なあ、ユナン。俺のものになって、俺に力を貸してくれ」
何故こんなに胸が痛むのか。その答えもユナンは知っている。
彼の笑顔が偽りであるから。女性を口説き落とすときの優しい笑顔、そのものだ。
それが初恋のうら若き乙女であれば、あるいはその策に籠絡されたかもしれない。けれどユナンは知っている。多くの人を見てきた。その中の、人を騙す時の表情、声、空気。
突きつけられる現実に、目眩がした。己が必要とされているのは、所詮マギの力だけなのだ。
その現実は、ユナンを打ちのめす。否、分かっていたことだ。心のどこかで気付いていた。この想いは片道通行。報われる事なんかない。
それでも、ただ守りたいと願ってしまった。
ただ幸せになってほしかった。
過去の世界、過去の記憶、神の存在なんかに惑わされないで、平和に生きてくれれば、この道が交わらなくとも良かった。
「愛しているよ、ユナン。ずっと傍にいてくれ」
優しい愛の囁きに、心が絶望に染まる。声音は心地良くて、例え偽りであろうと、王の言葉に従うことはどれほど幸せだろうかと思いを馳せる。
けれども、それでは駄目なのだ。ここで彼に身を委ねてしまうわけにはいかなかった。
「シンドバッドのバカ!」
「っ!?」
腕を振り解いて、シンドバッドの胸を強く押す。そのまま光の膜に覆われ、距離を取った。目頭が熱い。
唖然としたシンドバッドが、涙でぼやけた先に映る。
「どうして? ……何故だ! ユナン!!」
手を伸ばすシンドバッドをかわして、空へ逃げるように浮かぶ。溢れてきた涙が零れて落ちた。
「ごめんね。僕は君のマギだけれど、君に力を貸すことはできない」
君を失いたくないから。そのためだけにマギになったのだ。
王の隣に在りたいなどという我が儘も、王の願いを聞き届けたいという我が儘も、許される事ではない。
「意味がわからない。どういう事なんだ!?」
「さようなら、シンドバッド。僕はいつでも、君を見守っているから」
それだけを言い残して、空間を渡った。
パルテビアから少し離れた郊外へ移転したユナンは力尽きたように座り込んだ。
両の目から流れる水滴は、まだ止まりそうになかった。涙などとうに枯れてしまったと思っていたのに、軋むような胸の痛みが空知らぬ雨を降らせるのだ。
きっともう会えない。ずっと会えない。
大好きなのに、傍に居ては彼を守ることができないのだ。それを強く理解した。
「僕だって、行けるものなら君の傍に行きたいよ。シンドバッドのばか」
【瓦解する存在】
それは、日の長いとある日の出来事だった。
いつものように街中での商談を終え、シンドリア商会に戻ってきたところで、彼はビルを見上げている存在に気がついた。
その人物を、彼は知っている。名前も、正体も。
本来なら一般人の立ち入りを禁止している場所なのだが、一般人と言うには彼は特異すぎた。
風に吹かれて白金の髪が柔らかく揺れる。その中にある憂いを帯びた瞳は揺るがず、真っ直ぐ上を向いている。
その先に誰がいるかを悟ると、彼がひどく儚い存在に見えて来て、彼は眉をひそめた。
悠久の時を生きてきたと言われるマギ。今、彼はあの人の面影を探して、思いを馳せているのだろうか。
誰よりもずっと近くに居るのに、最近少しずつ主に対する理解が追いつかない事が増えた。
これまでも確かに理解し難い行動はあり、驚かされて来たのだが、ここの所は言い知れぬ不安を感じている。
目の前に居るのに、遠い存在になってしまったように思う。昔は手に取るように思考を察知できたのに。今は「何故」ばかりが付きまとう。
その後ろ向きな感情が胸に芽生えると、ふと自分も彼と似た境遇なのではないかと思えてきた。
忙しさを理由に自分の心と向き合っていないだけかもしれない。己の主の考えが解らなくて、見ない振りをしているだけなのだ。
そっと近付くと、そのマギは気配を感じとったのか、視線を下ろしてこちらを見る。そしていつもの優しい笑みへと戻った。
「やあ。こんにちは、ジャーファルくん」
「あなたは、確か」
「そうだよ。ユナンだよ」
腕を組みながら、わざわざ自己紹介されるが、とうに知っている。しかし、こうして直接話すのは、おそらくこれが初めてな気がする。
これまでにもシンドリアで見かけた事はあるが、彼があそこは来ていた理由は主にシンドバッドだったからだ。彼と話す機会も、動機もなかった。
「どうしてここへ? シンなら中に居ます、あなたなら嫌な顔をしながらもきっと喜ぶことでしょう。寄っていかれますか?」
このマギは、最もシンドバッドに近いフリーのマギだ。煌帝国のジュダルも、レーム帝国の新しいマギになったティトスも、もうシンドバッドにつくことはないだろう。アラジンも行方不明である。
ならば、少しでも近づけて、シンドバッドのマギになってくれたら、シンドバッドにも箔がつくと言うものだ。ジャーファルはそう打算的に考えた。
あと、もしかしたら、シンドバッドが国に帰ってシンドリアを再興させてくれるかもしれない。
……なんて、そんなありえない事を一瞬考えて、ジャーファルは苦々しく笑う。まだ自分はあの場所に未練があるのだ。
「いや、いいんだ。それより少し、お話ししないかい?」
そんな心境を悟ったのか否か、ユナンから予想外の提案がなされる。これからの仕事について考えないことはなかったが、少しなら大丈夫だろうと二つ返事で頷いた。
「いいですよ」
「ありがとう」
十年以上前に会った時と変わらない美しい微笑みに、息をのむ。ジャーファルはこれほどまでに美しい男性を見たことはない。
シンドリアに居た頃は、シンからたまに噂は聞いていた。
シン曰く、秘密主義の謎に包まれたマギ。暗黒大陸への境にある大峡谷を守護しているらしく、どの王にも属していない。長い時間を生きているらしい、という事は聞いたが、実際は何歳くらいなのか知れない。
けれども、ジャーファルは本能で感じ取っていた。このマギは、人間が好きだ。だから怖くはない。
そのマギが、笑顔を崩さぬまま、口を開く。
「君は、僕の事がきらい?」
「はい?」
いきなり飛んでくる謎の直球に、思わず思考がブレた。
「あ、いえ。嫌いじゃないですよ」
正確には、よく分からないので嫌いようもないのだが。
「良かった」
本当に良かったと思っているのか、雰囲気が少し柔らかくなる。緊張していたのか、ユナンは組んでいた腕をおろした。
「いきなりどうしてですか」
「うーん、それはね……」
話す事柄を吟味しているらしい、目の前のマギは考え込む。
「君が僕の先輩になるからかな?」
「先輩になる?」
おそらく、自分よりうんと長生きしている存在であろうに。意味が分からない。首を捻るジャーファルに、ユナンは静かに真実を告げる。
「僕ね、シンドバッドのマギになる事にしたんだ」
マギの放った言葉が一瞬で理解出来ず、静寂が訪れる。
「は!? ……えええぇぇぇぇ!?」
「ちょ、声が大きいよ」
ユナンは慌てて口元に指をあてて、声を沈めるように促す。
「シンには言ったんですか!?」
「言ってないよ。できれば秘密にしておいて欲しいなあ」
吉報であるはずなのに、それを通り越して度肝を抜かれた。
シンドバッドはマギを欲していた。あくまで昔の話だが。マギの存在を語る主の目が、キラキラと輝いていたことを今でも覚えている。
けれども、主を王としたマギは現れなかった。
それが、今、ここで……だ。
「それは保証しかねますが」
「そんな冷たい事言わないで」
お願い。とユナンが手を合わせる。
「でも、どうしてそんな大事な事を言わないんですか?」
あんな顔でビルを眺めていたのだ。事情があるなんてことは察している。
ユナンは困ったように少し黙っていたが、決心したのかきっぱりと告げる。
「……僕はただ、シンドバッドを守りたかっただけで、彼に力を貸すマギにはなりたいわけではないんだ」
悲しそうに、笑顔が曇る。
「守る? 何からですか」
今この世界に脅威はない。戦争は終わった。終わったはずなのだから。
けれど、彼の表情は曇るばかりだ。
「彼の中にいる、大いなる力に」
「大いなる力?」
「そう。……ねえ、今のシンドバッドは昔と一緒?」
ズキン、と胸が痛んだ。
一緒だといいたい。愛する主は昔と変わってなどいない。……否、変わった。けれど、その変化まで受け入れたはずだ。綺麗事だけでは、政治も商売もやっていけない。実際、やってこれなかっただろう。胸を痛めるような事も実際した。だがあれは全て必要だったことなのだ。
「シンは……シンは、変わり続けていますよ。昔から変わらずね。けれど、争いを無くしたいと言っていたシンドバッドは変わっていません」
「そうだね。僕もそう思う。シンドバッドは、僕の夢を叶えてくれたから」
よほど大切な事なのだろう。ユナンの声音は柔らかだった。そして優しかった。
しかし、続く言葉は声を潜めた。
「でももし、シンドバッドの中に、違う存在がいるのだとしたら?」
「っ!!!!? そんなこと、あるわけが」
「本当に、ないと言えるかい? ちゃんと言いきれるのかな。なら、僕はいいんだよ」
「……そんな。そんなはずは」
思い当たる節がないわけではない。いきなりシンドバッドから出てきた、確証のない情報の数々。それによってもたらされた繁栄。何か核心的な目的がある、シンドバッドの言動。明らかに不自然なアリババへの態度。主への疑心が、一気に溢れる。
疑いたくなどない。自分だけは、最後に残った八人将として、シンドバッドの臣下として、彼についていきたいのだ。けれども、愛した彼が、彼でなくなってしまうのなら。
「僕はね。ここに、彼を守りに来たんだ。だから、その為にマギになるんだよ」
故に、シンドバッドのマギに成り得てこそ、知らせることもできないし、近くに行くこともできない。その続きの言葉を感じ取ったジャーファルは、暫し思考したのち、ため息をついた。
「わかりました。貴方を信じましょう」
ユナンが安堵したように笑う。彼もきっと、決意をしたのだろう。誰を己の一番にするかという決意を。それが重なっている相手なのだから、彼は味方だ。胸のつかえがとれたわけではなかったが、そのことはジャーファルを幾分が安心させた。
「僕は今、シンドバッドの傍には行けない。だから君に頼みたいんだ。お願い、力を貸して」
「それに関してはやぶさかではありませんが、金属器がない今、私よりあなたのほうが、力を持っているのでは?」
「そうじゃないんだ。シンドバッドを独りにしない、それだけでいいんだ。それはきっと君にしかできないこと。君だからできること。いずれその時が来たら、必ず僕が力を貸すから。僕を信じて、シンドバッドの傍にいてあげて」
そっとユナンに手を取られ、両手で握りしめた。あの偉大なるマギにも焦りがあるのか少し汗ばんでいたが、熱意は確かに伝わる。
「当然のことですが、わかりました」
「ありがとう、ありがとう、ジャーファルくん!」
光るフルたちが溢れんばかりの声音とともに、ユナンが綺麗に笑う。よっぽど嬉しかったのだろう。
愛する主人を選んだマギ。例え力が貸せなくとも、共に尽くすと誓った同志だ。何があっても、彼も守らなくてはならない。おそらく、そう考えているのはユナンも同じだ。
欠けてはいけない存在を増やすごとに、守るという行為は難しくなる。
それでも、二人は同じ夢を共有した。
一人の男を、ただ守るという夢を。
【渇望した白羽根と】
荒い息づかいが耳に届く。やっと手に入れた身体を組み敷いて、関係を迫ったのはつい先ほどだ。
嫌がる素振りはしたものの、少し悪戯をすると、困惑しながらも続きを許してくれた。
本人の言った通り、誰にも触れさせてこなかったようで、身体は情事に全く慣れていなかったが、伊達に女を抱いて来たわけではない。少しずつ、丁寧に、心と身体を崩していく。途中でしつこいだの何だの言われたが、今更聞く耳を持たなかった。
情事の相手は普段から美しいと思える容姿なのだが、乱れている姿は一層綺麗で、心が踊る。何よりずっと欲しかった存在なのだ。それが今、腕の中にいるというのは、酷く征服欲を満たすものだった。
埋めた己を動かしたくて、体位を変えると、まだ慣れないユナンが悲鳴をあげる。
「やだ、手加減してよ。僕は君みたいに、もう若くないんだ」
制止をかけるユナンに抱きしめられる。小さく震えている背に、長い白金の髪が流れていた。
「俺は待っても構わないが、そうなると長引くぞ」
しつこいのは嫌じゃなかったのか、と言葉を添えながら、流れる髪を梳く。
「いいから、もう少し待って。……もう逃げたりしないから」
それを聞いて気分が良くなる。どちらにせよ、もう逃がす気などないのだが。
「俺はまだ若いからな、覚悟しておけよ」
顔を覗いて、震える瞼にキスを落とす。
「うー、可愛くないなあ。どうしてこんな子に成長してしまったの」
「三十路の野郎が可愛くてたまるか」
今、何を言っても無駄だと、にやりと笑って見せた。
求め合った後、シンドバッドは珍しくベッドの中にいた。女を抱く時は、事後まで褥を共にする事は稀なのだが、これまで直ぐに消えてしまうマギだったユナンをやっと手に入れたのだ。彼が意識を手放すまで、傍に置いておきたかった。
体力はまだ有り余っているのだが、今のこの身体で情事に望んだ事がないというユナンの身を案じて、程々にしておいた。無理強いしてもう二度としないと言われたら困るし、我慢がきかないほど子供ではないつもりだ。
ユナンは半分微睡みながら、大人しく腕の中で髪を梳かれている。大人しくしていると、本当に綺麗だと改めて思う。
「ねえ、覚えているかい。君の王国に居たとき、アラジンと二人きりで話をしたくて、中庭にお家を作ったこと」
懐かしい話だ。あの時はまだ、自分のマギになるなど夢にも思っていなかった。
「そんなこともあったな。あの時はなかなか腹立った」
「ふふふ。あの時、君の話もしたんだよ」
「は? 俺の?」
初耳だ。中でマギ達がどんな話をしていたのか、とても興味があった事を覚えているが、結局話の内容を聞き出すことはできなかった。誰にも仕えていないフリーのマギが、密談すると言うのだ。気にならないはずがない。
「何でかはわからないけれど、僕たちマギは、君を素晴らしい王の器として認める反面、何故かとても怖かったんだ」
「俺にダビデが入っているからか?」
だとしたら合点がいく。ただの人には感知できぬ存在も、マギならば本能的に感じるのかもしれない。
「ううん、違うよ。僕が怖いと思ったのはもっともっと前、君が半分堕転してしまうよりもっと。それこそ、最初の迷宮に入るより前だよ」
「それは、ほぼ出会い頭じゃないか?」
「そうだね」
出会った時と言えば、十五歳ごろだ。そんな時から勝手に恐れられていたとは全く知らなかった。だと、すれば、怖いのは未来が読める力の方なのだろうか。あの頃、シンドバッド自身ですら掌握できていなかった力だ。それに気づき、畏怖を覚えるのは、マギゆえなのだろうか。
しかし、マギを手に入れられなかった理由がそれだとは、心外だ。微睡んでいるユナンを覗き込んで問う。
「今も怖いのか?」
「……うん」
控えめながらに否定をしないユナンの言葉に、シンドバッドは軽く拗ねる。それを見て、ユナンがおかしそうに笑った。笑いながらそっと手を伸ばすと、優しく頬に触れる。
「でも、それより、僕は君を守りたい。君の事を好きでいたい。その事に気付いてしまったんだよ。悔しいことにね」
シンドバッドの胸がどきりと跳ねる。
「悔しいのかよ」
頬にかかった手に、手を重ねて取る。
「悔しいよ。僕はもう、誰も選ぶつもりなんてなかったんだもの」
悔しいと、優しい声音で話すものだから、つい無言の口付けを落とした。
「何なのいきなり」
不意に降りてきた行為に、ユナンはきょとんとする。
「いや、可愛いなと思えてきてだな」
「えーーー。やだ、やめて。それこそ三十路の十倍以上は生きてる僕に可愛いはないよ……」
「年がどうこう言う話じゃないからな」
「君って、僕よりうんと若いのに言うことがおじさんくさいんだよねぇ」
「何だと!この野郎。立場と言うものがわかってないな!?」
握っていた腕を引いて、ついでに上に覆いかぶさる。
「っ!? ちょっと止めてよ、乗らないで重いっ!! 駄目だよ? 今日はもうしないよ!!」
流石に驚いたのか肩を押してくるが、そんな非力な腕で押しのけられるほど落ちぶれてはいない。
「聞いてやらん」
「シンドバッドのばかっ! けだもの!」
「何とでも言え! これが若さだ!!」
叫ぶユナンを捨ておいて、白い首筋にキスを落とす。これくらい元気ならもう一回くらいは大丈夫だろう、などと不遜な事を考えたあたりで、綺麗に思考が消えた。惚れた弱みを握っていても、マギはマギだと言うことを、彼は目を覚ました後に思い知るのだった。
そろそろ本誌内容が進みそうなので、永遠にお蔵入りする前に、そっとねじこみました。
未来をご存知の方はそっと忘れて下さい(笑)
一つ目は、わりとハマった初期にぬるっと書いた……デスポエムでした。
別に私は皆城総士になりたかったわけではなく、ポエムの才能もありません!
ボツにしたんですけど、これから繋がる真なるデスポエムの一文があってw
せっかくなので笑いのネタに晒しておきますね!www
ねえ、たまには思い出しておくれよ。君を王にしたかった、偏屈で天の邪鬼なマギがいたこと。
本当はどうしようもなく惹かれていたのに、素直になれなくてごめんね。
いつか僕のルフが、君に見つけてもらえますように。
さようなら、僕のシンドバッド。
って、書いてあったんですよ。まじデスポエムだった。供養供養。
二つ目の話のコンセプトは「紅玉ちゃんみたいな扱いを受けるユナンさん」というものがあって、要するにシンドバッドさんが最低な話なんですけど、悪いのは私であって、シンドバッドさんではないので許してあげてください。
いまいち上手く書き表せてなくて、力量不足を感じます。ハイ次。
三つ目。ジャーファルくんとユナンさんの話。
シンジャとシンユナは同軸で存在できるんだよ!!!っていう話を、一人で延々とツイッターでしてたんですけど
書かないと伝わるわけねぇだろ?と書き起こしてみました。
右と右が合わさると百合っぽくなって尚可愛いと私は勝手に思っています。
ジャーファルくんとユナンさんはわりと仲良くなれるんじゃないかという期待のもと、今後も思いついたら書いていきたいですね。
四つ目の話で書きたかった事はセリフとかが多いんですけど
最後の「何とでも言え! これが若さだ!!」が気に入っているようです。
書いている途中に微妙にシャア・アズナブルの顔が頭にチラついたんですけど、別に彼は関係ないです。(笑)
あんまりエロくないというか、書きたかったのはエロ部分ではなく会話なので、もう喘ぎとか気にせず書きました。ええい面倒!
自由に脳内で脚色していただければ幸いです。
さーて、これからどうなるかな~……?どきどき。
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