制作時期:2023年11月19日
アステセ馴れ初め話のアステリオスsideの話
が見たいと言われ(※幻想)た気がしたので書いた。
テセウスはほぼ出てきませんがアステセです。
整合性とかあまり考えてないので、ふんわり雰囲気でお楽しみください。
世界の危機もなんのその、現在カルデアはゆったりとした時間が思いもよらず流れていた。世界の終末に対して取れる手段は全て使う方針がゆえに、念入りに時間をかけているためでもあるが、今年の秋はそれなりに平和だった。
ささやかなハロウィンパーティーも終わり、日常に舞い戻った厨房に今日も子供たちが集まって来ている。子供に優しいサーヴァントたちがこの時間に合わせてお菓子を作ったり、持ち寄ったりしてくれる。ゆえにこの時間は子供の時間だ。
アステリオスとエウリュアレも時たま一緒におやつを貰いに行く。今日は少し遅めだった。
この時間には子供の他に、甘いものやお菓子が好きなサーヴァントや、軽食に預かろうと顔を出すサーヴァントも多い。
そんな厨房付近でイアソンを見かけた。近い時代に航海冒険譚で名を馳せたアルゴノーツの船長だ。彼はトレイに二人分の飲み物を用意して、厨房に向かって何かと注文を付けていた。
「そっちのポップコーンは大盛りな、こっちのドーナツは二個で宜しくぅ」
「この欲張りさんめ、お腹にお肉がついてしまってもしらないだワン」
「あら、でもヘラクレスの分にしては少なくないかしら」
猫の耳のようなものをつけたエプロン姿の女性と、サンタクロースのような格好の聖女が楽しげに会話をしている。
「違ぇよ。今日はテセウスが来てるんだ。アイツってば、色んな世界が知りたいから~なんつって、俺の部屋に居座ってアクション映画見てんだぜ。ギリシャの英雄が子供みたいな顔しちゃってさ」
「ああ、なんだっけ。最近うちに来た人だっけ」
思わぬところで見知った名前を聞いて、アステリオスは椅子から立ち上がる。
「てせうす!?!」
大きい声に場が静まり、あたりがシンと静まり返る。当然そこにいたイアソンも振り返る。
「ん? ……げ、おま、アステリオス!」
「ほんとう!? てせうす、ここにいる!?」
急に距離を詰めようとするアステリオスに、イアソンが大きく退く。その顔はなんとも言えない引きつった顔をしている。
「あは、ははは……今のは……聞かなかった事にしてくれ!!!」
「あ、まって……!!!」
用意しようとしていたトレイすら残し、踵を返して一目散に逃げていくイアソンの足はとても早い。細い体で人の合間をするすると避けて逃げていく。自分の巨体ではとても追いきれなくて、でも少しでも話が聞きたくて、腕を伸ばす。どうすればいいか分からなくて、焦燥が増す。
「アステリオス、だめよ。少し落ち着きなさい」
気がついたらしいエウリュアレが席を立って近づいてくる。なんだなんだと視線が集まる中、彼女に腕を引かれて人気の少ない廊下へと出た。
「えうりゅあれ! てせうすが、てせうすが……いるって!!!」
落ち着こうにも興奮は冷めず、焦りだけが積もっていく。ずっと会いたいと願っていた英雄の名前が、突然降って湧いた事にただ驚きを隠せない。どうして。いや、いつのまに。ギリシャの英雄が呼び出されたと聞く度に調べに行っていたのに、一体いつマスターは彼と縁を結んでいたのか分からない。
「聞いたわ。いえ、私は知っていたわ。ごめんなさい、アステリオス。あなたを惑わせるつもりはなかったのだけれど」
対して、エウリュアレは落ち着いており、その抑揚のない声に焦りが吸い取られていくようだった。
「まだ話すべきではないと思ったの。ねえ、あなたはテセウスを、今はどう思っているの?」
「え???」
どう思っているか。バーサーカーの霊基というのは感情のコントロールが難しく、答えを出すのにどうも一呼吸かかる。考えても靄がかかっているかのようで、思考を固めるのに時間がいる。でも、とても大切なことなので、言葉を間違えたくはなかった。
「あの英雄はあなたを殺した存在よ。わかっているのかしら」
「でも、でも……ぼくは……てせうすのこと、きらいじゃない! ずっと、まってた!!」
「今のあなたにとっても、彼は救いになるのかしら」
「そう、ぼくをすくいだしてくれた、ぼくのさいごをみとってくれた、ぼくのえいゆう」
必死に言葉を繕うけれど、焦った心からは上手く言葉は紡げない。けれど、エウリュアレは焦ることなく、じっと寄り添って目を見てくれていた。いつも優しくて、愚鈍な自分を導いてくれる細い手は、信じられるものだと知っている。だから、息をゆっくり吸って、深く吐き出した。
「あなたにとってはそうね。けれど、彼はあなたを殺してしまったと思っているでしょう? そんな相手と死後に合うということは、彼にとって怖いことではないかしら。違う?」
エウリュアレの考えを聞くと、言葉がストンと落ちてきて荒れた波を鎮めていってくれる。とても一人じゃ考えつかない相手の気持ちを諭すように教えてくれる。そうだ、会いたいのは自分だけだ。だからきっと会いに来てはくれなかったのだ。
「う……。ち、ちがわない……」
「でしょう? あなたが突然押しかけたら、きっと怖がられてしまうわよ」
他人の気持ちを考えるというのは、どうしてなかなか難しいものだ。けれど、一番間違ってはいけないところだと理解しているから、必死に考えた。
最期に見たテセウスの顔は座に刻まれる程に鮮明だった。悲しそうで、つらそうで、切なかった。アステリオスの存在を哀れみ、悼み、心から悔やんでいた。これまでに会った誰よりも強くて輝かしかった英雄が、自分の言葉を聞いて涙してくれた。怪物として死ねる事は誇りだったけれど、世界から切り取られるように消えるのが、寂しくなかったのかと言われたら嘘だ。唯一彼に人として存在を認めてもらえたことで、どれだけ救われたか。彼はきっと知らないだろう。
会いたい。会ってお礼を言いたい。あの悲しい顔に、もう大丈夫だと伝えて、お話がしたい。
やはり、意思は変わらない。このままでは、だめだ。
「じゃあ、ぼく……ぼくは、どうすればいい? てせうすにあいたい。あって、おはなししたい」
胸が苦しくて、ぽろぽろと涙が溢れる。傷つけたいわけじゃないのに、困らせたいわけじゃないのに、どうしていいかわからないのだ。
女神は少しだけ困った顔をすると、顔に向けて手を伸ばしてくる。素直に屈むと、頬に触れられて涙を掬われた。
「大丈夫。大丈夫よ、アステリオス。私が力をかしてあげるから。あなたが望むなら、すべて叶えてあげる」
「うん、うん。……でもぼく、ぜったいきらわれてる。だって、てせうすは……ぼくにあいにきてない」
言葉にすると、更につらい。だが、ぐすぐすと鼻をすするアステリオスを見る女神の眼差しは、いつもの強気な微笑みに戻っていた。まるで目で大丈夫だと告げられているようだ。
「ねえ、アステリオス。少し、歩きながらお話ししましょう。とっておきのヒミツを教えてあげるわ」
エウリュアレの足取りは広い廊下を避けながらも、迷いはなかった。アステリオスはただ後ろについて黙って歩いていく。
「少し前のことよ。マスターが飛んでしまった特異点で、私とあなたが召喚されていたと言っていたわ」
「それ、いつ?」
「二十日前くらいかしら。そこにテセウスもいたというのよ」
「えっ!? じゃ、じゃあ」
「マスターはそこで彼と縁を結んだのでしょうね。彼もそうしてここへ喚ばれたんだわ」
本当につい最近だ。その頃なら、ハロウィンでカルデアが盛り上がっていた頃だろうか。
「そうだったんだ……ぼく、しらなかった」
「毎回、特異点で何があったのかを全て調べているサーヴァントは多くはないわ。私も聞いたのは偶然なんだもの」
知らなかった事に肩を落とす。知らない世界線でともに召喚された二人は何をしていたのか気になってしまう。
「そこのぼくと、てせうす……どんなかんじだった?」
「そうね、私が聞いた話だと互いを大切にしているように聞いたけれど。でも、それは私が話していいことじゃないでしょうから、終わったら自分で調べなさい」
「……うん」
それもそうだ。カルデア首脳部で観測された事はすぐに情報として出るが、マスターや関連したサーヴァントからの報告は少し時間がかかる。だが、一体何があって、どのような関わりがあったのか、全て知りたいと思ったし、それは自分が探らねばいけない事だった。
マスターが見た二人の話を聞きたい。そこにはきっと、色眼鏡を通していないマスターの言葉で綴られているのだろう。
黙って考え込むアステリオスを、女神はちらりと見やると笑みを濃くした。
「ここに喚ばれた彼はね、その事を知っているのよ。あなたと一緒にいた特異点を知っているの。記憶にはないかもしれないけれど、ちゃんと覚えているはずだわ」
「なかの、よかった……てせうすとぼく」
「そうよ。……ね、素敵なヒミツでしょう? 後はあなた次第ってことよ」
彼女がそう言って足を止めたのは、見慣れた誰かの部屋のドア前だった。
表札には部屋番号だけ書かれている。呼び出しのためのチャイムを鳴らすと、彼女は恐れることなくドアをコンコン叩く。中に誰がいるのか知っているという体だ。
「こんにちは、イアソン。いらっしゃる? 私、エウリュアレよ。テセウスの行き先を聞きたいのだけれど、ご存知ないかしら」
返答はない。が、エウリュアレは懲りずに何度もチャイムを連打する。そんなわるいことをしてしまっていいのか、アステリオスは少しそわそわした。程なくして、部屋の中から声がする。
「留守でーす!!!」
なるほど、これが最近流行りの完全在宅かもしれない。こう見えてカルデアの個室のセキュリティは高く、力で無理矢理開けられない作りになっているし、押し切って壊すとめちゃくちゃ怒られる事をアステリオスは知っている。もちろん、エウリュアレもだ。
「あら、困ったわね。じゃあ誰かが帰ってくるまで、ここで待つしかないかしら。私たちはただお話をしに来ただけなのに、居留守だなんてとても悲しい。泣いてしまうわ」
「わあ、なかないで……えうりゅあれ! ごめんなさい、ぼくが、てせうすにあいたいなんて……わがままいったから!!」
声をふるわせてほろりと泣くふりをするエウリュアレに、アステリオスが焦りだす。何の茶番だ。片方は本気だが。それをモニター越しに見ていたイアソンは頭痛を感じた。ここへ襲撃に来たわけはないことはすぐに察せてしまうあたりが余計につらい。
「ホンット、そういうよくわからん脅しやめろよな!!!」
そうして機械音と共に、その扉はあっさり開くのだった。
「こんにちは、イアソン。いつの間に帰ったのかしら」
「今だよ今。で、テセウスに会ってどうするってんだ? 返答次第では教えてやらない事もないけど、ちゃんと説明しろよ」
そもそも、何故テセウスが既にいない事を知っているのか、とイアソンは訝しる。まぁ、部屋で籠城なんてするわけがないのだが。勘の類な気はするが、追求はしないでおいた。
「だそうよ、アステリオス。ここからはあなたが頑張りなさい」
「えっと、ぼく、てせうすと……なかよくなりたい。そのために、あいたい」
辿々しくも必死に伝えようとしているアステリオスの言葉を聞いて、イアソンは溜息をつくしかなかった。どこからどう見ても裏はなく、悪意もない。それがテセウスにどう映るかはさておき、いつまでも逃げていられるようには思えなかった。
「おまえさ……俺の良心が負けるの、わかっててやってるだろ」
隣で全てわかっているかのように、微笑みを浮かべている女神に問いただす。
「とうぜんよ。私は女神だもの」
イアソンは結局のところ、テセウスを傷つけない事を条件に行き先を教えてくれた。生前に誰かと因縁を持つサーヴァントは彼も同じで、その仲が良くなるならという事だそうだ。彼は彼なりに友を心配しているようで、随分と気にかけていた。
目的地はシミュレーションルームとなり、足早に二人はそちらに向かう。
「いいかしら、アステリオス。彼を見つけたら、迷わず宝具を使いなさい」
「え……でも、てせうすを……とじこめてしまう?」
「彼の宝具を言ってなかったわね。テセウスの宝具は、あなたの迷宮から出るためのアリアドネの糸よ。つまり、自分の意志で迷宮から逃れることができるの」
「ぼくのめいきゅう、つうじない?」
「いいえ、彼はそれなりに知恵が働くでしょうから、出てきた所を捕らえられると考えるんじゃないかしら。まぁ、実際に出てきてしまったら私の矢でぷすっと足止めしておくわ。ふふふ、私、彼とはクラスの相性がいいのよ」
シミュレーションルームに着くと、すぐさまエウリュアレがモニターを見て探り出す。あまりそのような機械操作が得意でないアステリオスは素直に待機する。すぐさま目的地を絞ったらしい女神は「みつけた」と呟いて、シミュレーションルームの奥へ移動した。そこから転移するのだ。
「えっと……ぼくは、あいにいけばいい?」
そっと手が差し出されたので、アステリオスはその手を握る。小さなぬくもりを感じられた。こうして飛べば、離れ離れになることはない。
そのままエウリュアレが操作盤を触って、装置が作動する。
「そうよ。次はね、あなたが彼を迷宮まで探しに行くの。迎えに行って、目を見て、ちゃんと話をして、理解しあって、そうしてここまで連れてきなさい。私とあなたが一緒にここで過ごして来た日々は、無駄ではなかったの。あなたは誰かを大切にすることができる立派な人よ。私の自慢の子。それを忘れずに会うことができれば、必ずうまく行くわ」
「わかった。まだすこし、こわいけれど……ぼく、がんばる」
慣れたシミュレーションルーム内の移動だが、今のアステリオスには彼女の声しか聞こえていなかった。肯定してくれる強い言葉は、弱った心を奮い立たせてくれる。自分はもう寂しかったひとりぼっちの怪物ではなくて、誰かに信頼してもらえる人なのだと、そう信じられる。
「あなたの幸運を祈っていてあげる」
「ありがとう。えうりゅあれ……だいすきだよ!」
心をこめてそう言った。いつもありがとう。信じてくれてありがとう。見ていてほしい。人になった自分を。
それを聞いて女神は穏やかに笑う。エウリュアレを腕に抱くとアステリオスは彼のいる場所に向かい、大きく跳躍した。
そこは見たことがあるようで、どこかわからない夜の浜辺。月が煌々と輝いていて明るい夜だ。波は低く、とても穏やか。エウリュアレにこの辺りにおそらくいると言われたが、足跡などはない。となれば、浜辺だろうか。所々に岩場もあって見通しは悪かった。
「大丈夫よ、この先だわ」
どうやって感知しているのかはわからないが、エウリュアレが真っ直ぐ指差す方に走る。暫くすると、開けた波打ち際にテセウスがいた。そっとエウリュアレを下ろす。
テセウスは月明かりに照らされて、海を見ながら歩いていた。会いたかったその姿はどこか寂しげで、アステリオスは手を伸ばしながら名前を呼んだ。同時に迷宮を展開する。
「見つけた、てせうす!!!」
「あ」
振り返ったテセウスを見た瞬間、空間が捻じれた。
見慣れた迷宮の中にアステリオスは降り立った。瞬時にテセウスの気配を探る。そう遠くない位置に降りたようだ。きっと不安がっているだろうからと、アステリオスは駆け出した。
会ったら、何を言えば良いだろうか。そんな事を考える。これまでのカルデアでの生活のこと、新しくできた友達のこと、ずっと調べていたテセウスについて思うこと、そして先程聞いた特異点のこと、話したいことはたくさんある。
だが、ここでは初めて会うのだ。怖がられてしまうのは怖かった。
新しい自分を彼は受け入れてくれるだろうか。誰かを信じられるようになった自分を見てほしい、絶対にもう二度とあんな悲しい顔はさせないから。
一緒にお花畑に行って、日向ぼっこしながら寝転がってお昼寝したり、おやつの時間に一緒に食堂に行くんだ。ここで知ったたくさんの英雄の、たくさんの冒険譚を語り合って、過去も現在も未来も考えて、いつかここが消えてしまう時まで、隣にいたい。
だから、もう一度……必ず会うんだ。
君のいる部屋まで、あと少し。
エウリュアレは心の底からアステリオスを大事にしてくれそうで本当に書いていて楽しい。
妹に対しては素直じゃないけど、アスくんになら優しいと信じている。
あまり裏になるような対の話は書かないんですけど
これは書いておいてもいいのかなぁ、とか思いつつポチポチやってました。
アステセかわいい。
あとイアソン書くの楽しい。
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