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黎明まで、ただ傍にいて(エメトセルク×ヒュトロダエウス)

登場人物:エメトセルク ヒュトロダエウス

CP傾向:エメヒュ

制作時期:2022年1月

いきなり書きたくなったエメヒュ。
くっついてない上に最高に暗い馴れ初めとか
いかにも私らしい話になりました。
何番煎じだろうか……。まぁいっか。







「どうしてお前が『そちら側』なのだ」

 やっと見つけた、とでも言うように肩を掴まれて彼は足を止めた。
 振り向きざまに見たその男は走ってきたのか息が少し乱れていて、珍しいこともあるものだと驚く。彼は元々早足だが、必要以上に走ったりはしないからだ。

「やあ、エメトセルク。おかしなことを言うね。志願したからに決まっているだろう」

 振り向いた彼はいつものように笑う。
 そう、彼は何事も本当に楽しそうに。人生を誰よりも楽しんでいるかのごとくいつも笑っていた。
 だから大丈夫だと思っていた?
 否、そんな事はない。エメトセルクの座についた時から、公平公正で正しい道を、誰よりも自分を律するように体現してきたつもりだ。
 だがどうしてだろうか。こうなることは予想できたはずなのに、こんなにも胸が苦しくなるのは。



  終焉が訪れた今、アーモロート内の近況は逼迫していた。まだ空は赤黒くなっていないが、数々の地域で崩壊が始まっている事が伝えられている。ここもおそらく時間の問題なのだろう。
 そんな中、十四人委員会が出した決定は、生贄を使ってでも終焉を覆す神を創造することであった。すぐさまアーモロートだけではなく、他の所からも生贄が募られ、一晩とかからずその席が全て埋まりゾディアークは召喚された。
 だが生贄にする数が足りないらしく、力を維持するためにも更なる公募がされていたのだ。
 そもそも寿命による死という概念を克服しているからこそ、他の者のために命を使ってほしいと願う者は少なからず居る。皆、懸命で賢く、誰が生き延びるべきかを正確に判断していた。
 渡された名簿は高齢の者や、そこまで能力がない者、逆に能力はあれど未来を託そうと決めたものなど様々な名が記されていた。そんな中で見つけてしまったのだ。彼の名――ヒュトロダエウスという文字を。
 次の計画を決定したのは昨日、生贄の発表と公募を開始したのは今日、そして儀式の決行は明朝だ。それを思い出し、彼は名簿を投げ捨てるように机に置くと、すぐさま外へ飛び出したというわけだ。
 誰もが足早に駆け回る中、彼も早足で駆け回りながらエーテルの視える眼を使い彼を探す。そんな品性に欠ける行為を自分の矜持ゆえにしたことは少ない。だが、そんな悠長な事は言っていられなかった。
 ふと、薄紫に輝く彼のか細いエーテルを見つけると、それを辿るように後を追う。その先には、もう誰も楽しむ者がいなくなった庭園を、独り優雅に歩いている彼の姿が見えた。
 残された光の中で、瑞々しい緑の木々の中、花は場違いなくらいに咲き乱れ、まるでここだけ切り取った楽園のようだ。そうだ、ここは楽園だったのだ。
 彼は足早に近づいて、勢いよく彼の肩を掴んだ。そして冒頭に戻る。



「もしかして、ワタシにさよならを言いに来てくれたのかい?」

「……馬鹿者! いや、大馬鹿者!!!」

 いつものように茶化して笑う彼を思いっきり叱る。いや、叱る話でもないだろう。生贄を募ったのは自分も含む十四人委員会なのだから。

「だとしたら、嬉しいなぁ。志願したかいがあるってものだよ」

「お前だってその眼があれば……!」

 元はその眼を欲して十四人委員会に選抜されていたほどの実力者だ。ただその能力を操るに至らなかったため辞退しただけで、これからも必要な、稀有な能力を持った者ではないのか?
 そんな事を自問する。

「うーん、それはどうかなぁ。ワタシはやっぱり荒事には向かないし、キミみたく賢くも強くもないしねえ。ほら、いつもキミの背中に守られてばかりいたじゃない」

 返ってきた答えは事実なのだが、腑に落ちない。私的な感情に振り回されるなどあってはならないのに。言いたいことは山ほどあるのに、言葉が見つからなくて、拳を強く握り歯ぎしりした。
 硬い表情のエメトセルクの隣に、ヒュトロダエウスが改めて横に並ぶ。そしてわざとか否か、話題を変えてきた。

「ねぇ、エメトセルク。いつかにさ、こんな感じの楽園のような空中庭園に、二人で行ったよね」

「ん……エルピスのことか?」

 実際にエルピスは実験施設だ。空中庭園ではあるが優しいだけの世界ではない。
 だがアーモロートに住む者にしてみれば、自然溢れる世界を再現されているエルピスは輝いて見えるだろう。
 そこにファダニエルの後釜と言われる男の仕事ぶりを見て、十四人委員会に引き入れるために出向いたのだ。なんてことはない、ただそれだけの仕事のお話。

「そう。あの時の事、覚えてる?」

「それなりにはな……」

 仕事を見るために数日泊まり、確かに綺麗だと思うくらいではあった。

「ワタシとしてはなかなかの大冒険だった……ような気がするんだ。気がするだけなんだけどね」

 思い出話を楽しげに語る友は、あまりにいつも通りすぎて、焦っている自分がおかしいのかと錯覚すらする。

「私一人でもどうにでもなるような仕事だったと覚えているが?」

「え~! ひっどいなぁ、無愛想でお硬いエメトセルク様だけではダメだったって。誰とでもすぐに仲良しになれちゃうワタシがいてあげたから上手く行ったところもあったでしょ」

「ふむ、記憶にないな」

「もお、本当は覚えてるくせに~」

 その返答に、ちょっとむくれる彼を見て、エメトセルクは少し落ち着いた。
 ああ、彼はきっと最期までこうやって怒ったり笑ったりしているのだろう。

「ワタシね、最期にあんな風景を見たかったんだ。だからここに来たんだけど。やっぱりあの何とも言えない開放感には程遠いなぁ」

 思い出にひたるよう目を瞑りながら、ヒュトロダエウスが溜め息をつく。

「……。どうして私には会いに来なかった」

 このままで夜を迎え、会わないまま朝になれば、一生会えないで終わってしまうところだった。名簿の点検などという面倒な業務を一時は放ってしまおうかと思ったが、真面目にやればこの結末だ。
 そう臭わせながら威圧的に話す。そんなエメトセルクの心境を素早く察したのか、ヒュトロダエウスは後ろを向いて伸びをすると、一言呟いた。

「う~ん、ワタシさぁ。キミのことを愛してるみたいなんだよね」

 一瞬の沈黙が流れる。

「はぁ? 何をつまらんことを」

「だよね~。キミはそう言うと思った。でもさ……だからこそ、この命を掛けていいかなって、思えちゃったんだよ」

 気楽そうに話しているが、ヒュトロダエウスは真面目だ。

「あ、断じてフラれる確信があるからじゃないよ?」

 ついでに何も言っていないのに、念を押される。
 話が突飛すぎてついて行けていないだけで、断ったつもりなどないのだが。

「キミはきっと、世界を救うよ。終焉なんて終わらせて、残った人を導いて、世界を再興させて、平和を取り戻して、色々な景色を見て、様々なものに触れて、未来を紡いで、もしかしたら家庭を持ったり、国の王様なんかにもなっちゃうかも」

 楽しげに語るヒュトロダエウスは、自分よりよっぽど明るい世界を夢見ていた。彼とて創造物管理局の局長だ。この世界の厳しさも、完璧の中にある空虚でドス黒い穴も見えているはずだ。それでもなお、そう云うのだ。

「ありえん、どこまで妄想したらそうなるんだ」

「ワタシはね、キミが生きる未来では幸せになってほしいんだ。だから……だよ。本当はさ、隣でそんなキミを見ていたくないのかって言われたら、そりゃずっと傍にいたいよ。でもそんな未来すら来ないのなら、ワタシは喜んでこの身を捧げる」

 そう言ってくるりと振り返ったヒュトロダエウスは、こちらが泣きたくなるくらい朗らかに笑っていた。
 エメトセルクは思わず、何とも言えない神妙な顔をしてしまった。これはもう、引き止めることは叶わないだろう。そもそも引き止めに来たのか、お別れを言いに来たのかすら、エメトセルクは自分の心境を把握していない。ただただ、会わなければ後悔すると思って彼を探したにすぎない。
 そんな彼の心境を悟ってか、ヒュトロダエウスはそのままエメトセルクの頭を両手で包み屈ませると、こつりと額に額を合わせた。かつてないほど、薄紫の髪が近くで揺れる。友と言えどもこの距離は初めてだ。

「だからどうか、悲しまないで。ワタシはもう、充分なくらいキミから幸せを貰ってるんだよ、ハーデス」

「だから私は置いてけぼりを食らうわけか、私への相談もなしにお前は勝手に決めて、私の前からいなくなるのか」

 そこが面白くないと言えばそうなのだ。
 むすりとそのまま口を閉じるエメトセルクに、困ったように彼が笑う。

「そんな不貞腐れないでよ。時間がないんだから相談する時間もなかったしさ。大丈夫……エーテルに還らず、ずっと、ずっとキミを待っていてあげるからさ。キミはキミのやるべき事をやるんだ」

「いらん、還れ」

「わぁ、ひっどい! そうやってワタシの気遣いをいっつも無碍にするんだから」

 ヒュトロダエウスは顔を上げると、そのままエメトセルクの頬をむにむにと押して怒る。

「そんな奴に惚れたとか言ってた奴がそういえば居たな」

「愛してるとは言ったけど惚れたとは一言も言ってませんー! そもそも元から惚れてますしー! そんなの今更だしー!」

 微妙に喋りにくい上、鬱陶しいがされるがままになっているエメトセルクは、ふと疑問を抱き、意味がわからずに思わず問いかけた。

「お前の好きは一体何なのだ? 恋愛か? 親愛か? 友愛か? 何だ???」

 彼が自分に愛着を持っていることくらい、これまで散々行動を共にしてきて分からないはずがない。いつからか行動するときは大概傍に居た。だからあえて聞いたのだ。
 しかし、本人もきょとんとした顔を一瞬して、すぐに破顔した。

「う~ん……わっかんない!! なんだろね~」

 どうせ後先などないのだと、彼は既に考えることを放棄しているらしい。なんともあっけらかんとして見えた。

「はぁ……私はお前のそういうところが厭だよ」

「でも、こうしてずっと傍にいたかったのはホントだよ。キミのために身を捧げるのもね」

 自分に何を求めているのか……などは先程聞かされてしまった。この先がもしあるならば、ここではっきりさせたいところだが、本人にもわからないなら突き詰めるだけ時間の無駄だろう。エメトセルクとて、その話を深堀りしたくてここまで来たわけではないのだ。
 ならば、己は何をしにきたのだろう。そう自問自答する。
 そう、後悔しないために、彼を見送りに来たのだ。最期の時間をただ過ごしたい。それだけのために。
 エメトセルクは短く溜め息をつくと、いつもの調子で語りかけた。

「……。何か、最期に願いはあるか」

 叶えられるなら、今だけでも叶えてやろう。それがはなむけとなるならば。……そんなものなくても、勝手に笑顔で消えそうではあるが。そういえば、死んだ者に花を添えるなどという話は、どこで聞いたのだろうか。何故か思い出せなかった。

「そうだね。ん~……毎日思い出してとか重いことは言わないよ。けど、ワタシという友がキミにもいたこと、それだけは忘れないでほしいな」

「お前のような強烈な人間を早々に忘れるものか、厭でも毎日のように思い出すだろうな」

 記憶するという重責。それが輝かしければ輝かしいほど。辛ければ辛いほど心身を摩耗させるとどちらも理解しているのだろう。どちらにせよ、永遠の別離に変わりはない。
 少しずつ、陽が傾きつつある。最期の夜がもう訪れるのだ。

「じゃぁいいや。……なら、最期にさ……」

 彼はぽすりと肩に顔を埋めると、静かに一言、呟く。
 それを聞いたエメトセルクは、残された業務など全て忘れることにして、頷いて見せた。









誰が何と言おうと左右完全固定のエメヒュです!
というわけで、お風呂に入ってたら書きたくなったので超高速で書き上げました。
最後にFF14で今は書いてらっしゃるフォロワーのMさんに校正もしていただけて
感謝感激です……ありがたい。おかしいところは自分でなかなか見つけられないので……。

ちなみに最期のセリフがタイトルになっているパターンなんですが、どれくらいの人に気づいて貰えるんだろうなぁ……と、ちょっと遠い目をしています。
あまりタイトル考えるのは得意じゃなくて。

今の所、エメちゃんとヒュっくんは友達以上恋人未満のままがいいなぁと思っている
相変わらず薄ぼんやりしたBLばっか書くわね私……状態ですw
が、まぁいっか!!!
エルピス本当に楽しかった……78IDには感謝しかない。
うちはヒラだったのでやたら屈強なエメちゃんが荒々しげに敵につっこんでましたが
色んなパターン見てみたいですね。(やる事おおくてできてないマン)

そのうちエメちゃん没後の話とかも書きたいですが
お風呂に入っててネタが出てきたら書くかもしれないし、書かないかもしれない。
さぁ、どっちだ!?

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