【登場する人】
四聖、紂王、妲己、
【CP】
紂王✕高友乾
【備考】
『無優無風の裏で』の続き
注意!
直接的な描写はありませんがR18G(所謂エログロ)の範疇で流血もあります。
苦手な方は特にお気をつけください。
読みたくないけどあらすじが気になる方は『あとがき』までどうぞ。
聞仲との通信が途絶えた。四聖に留守を任せて、仙界の戦いへ身を投じていたのだ。
今や仙人界は落ち、周側の仙人もほとんど周へ戻っていると聞く。何が起こったのか、予想するに難しくなかった。聞仲は金鰲島の中でも敵が多い。四聖たちは無理を推してでも参戦するべきだったと嘆く。
だが、そんな後悔をする間もなく、妲己は帰って来た。束の間の平穏を破り、皇居すら破壊する、伴侶という化け物を連れて。
否、連れてきたのではない。元からそこにいた。寧ろ四聖が後から来たというのが正しいだろう。
紂王と呼ばれた『それ』は、既に人の形をしてはいなかった。昨日までの賢王ぶりは微塵も感じられない。まさに化物だった。呼び掛けても何も答えはない。それどころか、理性を保っているのかすらあやしかった。
「何なんだよこれ!!」
李興覇が叫びながら攻撃をかわす。四聖には逃げるしか道はなかった。
相手は変貌したとは言え、亡き主の仕えし者だ。止めようにも四聖の技は大技ばかりで、首都圏内で使えるものなど限られている。
否、ここで止めなければ、民にも甚大な被害が出る可能性があった。
聞仲を亡くした今、何の為に戦うのか。それが四聖には存在していない。
混乱の中、逃げ惑う。このまま逃げるのか、それとも戦えば良いのか。足並みは揃わず、その一瞬の油断が生死を分ける。
「逃げろ! 楊森!」
目にも止まらない速さで加速した紂王が楊森を狙う。咄嗟に庇いに入った王魔が背中から凪払われ、楊森と共に塀へ激突した。砂埃が周囲を覆う。
「くそっ! よくもやったな!!」
その側面へ李興覇の拌黄珠からの光線が命中した。
だが、爆煙から姿を現したのは、少し腕を焦がしただけの紂王だった。煙の中では威力が落ちるとはいえ、照射で鉄をも焼き切る興覇の攻撃を防ぎきったのだ。
紂王は光が放たれた方向、李興覇をぎょろりと睨む。
「まずいぞ興覇! 来る!!」
高友乾にはそう叫ぶのがやっとだった。
咄嗟に水のバリアを李興覇の前へ張り巡らすも、肉迫してきた紂王は易々と一瞬で李興覇の腹を抉った。当然のようにバリアごとだ。
並みの人間の腕力では崩れないものがいとも簡単に消し飛ばされる。李興覇の小さな体が鮮血を吹いて地に転がるの目の端で認識した。致命傷だ。
つまり、あの一撃は、仙人にとっても死の一撃であるということだ。
仲間を次々に倒され、高友乾の焦りが濃くなる。王魔や楊森は無事だろうか。李興覇をどうすれば救えるのか、必死に考える。
ここで仲間を見捨てるほど落ちぶれてはいないつもりだ。逃げるという選択肢はひとまず捨てる。逃げるなら全員で、だ。
しかし、勝算がないのも確かだった。
戦って死ねるのであれば、それは戦士にとって不幸中の幸いかもしれない。
けれども、こんなところで斃れてどうするのか。聞仲のいない今、この国を頼むと任された言葉だけが生きている。
混元珠に力を込め、海水を呼び出そうとする。薄い海水のバリアも厚さを増せば強度が増す。粘力を増せば一時的に紂王を封じることもできるはずだ。
「ひっ、化物……!」
しかし、ふいに人の声がして、集中していた手が止まった。
「何だよ、まだ人がいたのか!?」
違う。衛兵が物音を聞いて駆けつけてきたのだ。妲己がいなかった今、魅了の術にかかっていない正気の者は多くいる。紂王を再度魅了した時に範囲にいたものは同時に術にかかっただろうが、そうでない者は宮中の異変に気づいて集まってきたのだ。
「こっちに来るな!!!!」
紂王は正気ではない。何より戦いに巻き込む恐れがある。今は自分の身すら守る余裕がない今、人間など足手まといだ。だが彼らは紂王を支え、守るために存在している人々だ。できる限り殺したくはない。
声とほぼ同時に横を何かが通り過ぎていく。仲間……ではない。紂王だ。
紂王は衛兵を捉えると、躊躇なく切り裂いた。いや、殴り飛ばした。その圧力たるや周囲の建物を破壊し、崩れ去る轟音が響き渡る。人であったものはただの肉塊となったことだろう。染まる赤い世界で悲鳴が轟く。倒壊した宮中に人がいないわけがない。まだたくさんの従事者がいたはずだ。
紂王が唸り声をあげながら破壊の限りを尽くしていく。目につく全ての者を葬りさる化物は、敵や味方などの区別をつけず、全てのものを殺していた。
これは戦闘ではない。ただの虐殺だ。
「どうして……どうしてだよ!」
気づけばそんな言葉が出ていた。届くはずなどないのに。
「あんたには守りたいものがあったんじゃないのか!? それはこの国じゃなかったのか!? あんたがこんなにして、どうするんだよッ」
こんなの、矛盾がすぎる。
初めて禁城でまみえた時も、友達になりたいと会いに来た時も、傍にいることになった時も、変な王だと思ったが、嫌いではなかった。
その過去が、こんな形で踏みつぶされるとは思わなかった。悔しさで目が眩む。
「あら、紂王様。高友乾ちゃんですわん」
「妲己、貴様!!!」
遠くから妲己が唆す声がする。全てこいつの仕業だ。紂王がおかしくなったのも、国がおかしくなったのも。たくさんの人が殺されることになったのも。
他の声は全く聞こえない風だった紂王は、ぴたりと動きを止めた。
「高……友乾……?」
「紂王様、あれが欲しかったのではなくてん?」
「欲シ……イ?」
妲己はクスクスと笑いながら、紂王であったもの肩に降り立ち、頭に腕をまわす。
そうして、優しく諭すように、子供にでも理解できるように、ゆっくりと紂王に語りかける。
「あらぁ、今なら阻むものは何もありませんわ。アナタのモノにしてしまって良いんじゃないかしらん」
嫌な予感がする。元々嫌な汗ばかり掻いていたのに、まだ汗は止まらない。
「予ノモノニ……アアア、アアアアア!! ソウダ、予ハホシカッタ!!!!」
紂王が錯乱しながら絶叫をあげる。この化物を、自分へけしかけるつもりなのだ。
おそらくは傾世元禳の持つ能力で操っているのだから、紂王に抵抗する力など既にないだろう。
為す術がない。ここで、自分は殺される。
「この外道が!!!」
「それはわらわにとっては褒め言葉のようなものねん♡」
妲己を罵倒しようとするも、瞬時に跳躍した紂王に高友乾は押し倒された。
あまりの速さについていけすらしなかった。
「ぐっ!!!!!!!」
瓦礫に背と頭部を強かに打つが、痛みは他にもすぐさま襲ってきた。高友乾を組み敷いた紂王は、有り得ない力で高友乾の腕を握り潰す。混元珠も手から離れ、呼び出していた海水が一斉に地に流れた。
これまでの戦いで腕がもがれかけた事も、脚を貫かれた事もある。痛みに構って躊躇していたら戦士は戦うことができない。これくらいの痛みは範囲の内だ。
しかし、それよりも怖かった。爛々と光る紂王の瞳が。カタチだけは紂王のものであったその瞳が、深淵のような狂気をもって真っ直ぐ覗いてくる。裂かれた口から吐かれる息は荒く、思わず怯む。
「ホシイホシイホシイホシイ! ソナタハ! 予のモノダ!! ズットホシカッタ。サワリタカッタ。コノ美シイ髪を! ソノ滑らかな肌を!!!」
伸ばされた腕は労ることなど知らない、破壊の手だった。破られた衣が無残に剥ぎ取られる。
引き裂かれる痛みを、辱められる絶望を、貫かれる恐怖を、恐怖で支配される事を、初めて高友乾は身をもって知った。
どうせ死ぬなら戦って死にたかった。それが武を嗜んできた戦士としての矜持だった。どうやらそれは成せそうにない。
血が流れすぎたのか、意識が遠くなる。揺さぶられる身体は玩具のように力はなく、血にまみれながら異物に汚された姿は凄惨だった。
「愛しているぞ、予の君よ。ドウシテさえずらぬ? サア、鳴いてミよ」
地に伏せて動かなくなった高友乾に、紂王が僅かに狼狽する。己が壊したなど、知る由もない。
殆ど霞んで見えなくなった高友乾の視界に、笑っている妲己らしき陰が映る。
「ごめんなさいねん。千切られて、貫かれて、とても怖くて苦しいでしょう? その耐え難い痛みは生涯消えることはないでしょう」
かつて己を追い詰めた敵が転がされ陵辱されている姿は、さぞや愉快だろう。
だが、妲己は他に聞こえるか聞こえないかの声音で呟いた。
「だから……したのん。……は『あちら』には………から」
あちら? 何の話か、朦朧としている高友乾には理解ができない。声は届かなくとも読唇術で読めるはずだ。読もうとするが、それを理解するまでに意識が混濁する。どうしようもない睡魔に飲み込まれて溶けていく。これが死の感覚なのかと漠然と思う。
妲己は紂王へそっと寄り添うと、愛おしげに頬を撫でる。
「どうか――……」
何の事だ?
もう声にはならない。視界すら閉じられた。
次の一瞬で全ての痛みから解放され、高友乾の魂魄は封神台へ飛んだ。
【今回のあらすじ】
妲己は紂王を化物にかえて再び殷へと帰ってきた。
応戦するも敗れ去る四聖。(ここまで原作)
だが妲己は紂王に囁く。今なら高友乾を手に入れられる、と。
抑制を失った紂王は高友乾へと襲いかかる。
為す術なく嬲り殺された高友乾の魂は封神台へと飛び去るのだった。
というエログロ鬱展開です。ワーオ!
直接的ではないので大丈夫だと思うのですが、物語的にこれは書かないとどうしようもない部分だったので、得意でないけど書きました。
四聖を殺したのは紂王、というこの事実があるだけで、彼らを仲良くさせてしまった時点で避けられぬ道だったというか……そんな感じです。うっうっ。
ちゃんと収拾がつけばいいんですけどねー。
私そんなに作文の能力高くないしなー。でもやるしかないよなー
と言いつつ頑張った次回『
神葬りの箱庭で』期待せず読んで下さい。(こらっ)
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