登場人物:赤い霧、ゲブラー、ケセド、アンジェラ
CP傾向:ゲブケセ(左右固定)
執筆時期:2021年4月~6月
『Library Of Ruina』のゲブラー×ケセド(左右完全固定)短編です。
赤い霧との戦闘後の妄想話になるので、そこまでのネタバレを含みます。
なおLoRやってる方なら全然平気でしょうが流血表現があります。
ケセドが思いっきりゲブラーのことが好きなくらいにはゲブケセってますが
やっぱり恋人らしい事は何もしてないです(笑)
「カーリー!!! カーリー……カーリーッ!!!!!」
発砲音と剣撃の音が止み、血の匂いの充満するその空間に、赤い彼女は倒れていた。元々髪も服も赤かったのか、血に染まって赤くなったのか、もうわからない程にどこもかしこも赤かった。
そんな血溜まりに駆け寄る男が一人。遠くから「待ちなさい!」と引き止める声が聞こえるが、彼を静止させるものは何もなかった。
真っ赤に染まった彼女は微かに顔をもたげると、声をある方をぼんやりと見やる。頬や耳など裂けた傷から血は出ていたが、本能的に頭部への被弾を避けていたのか顔の部分だけは無事だ。
「その声、ダニエル……か? すまないな、もう真っ暗で何も見えないんだ」
青い司書の制服が血に染まるのも厭わずに、男は彼女の頭部を膝に乗せて抱きしめる。もうとっくに堰を切った涙が、ぽたぽたと彼女の頬を濡らして零れて落ちる。
「そうだよカーリー、俺だよ。ごめんね……ごめん、ごめん!」
先程まで遠くから聞いていた彼女とアンジェラの会話。別の階から見ていた死闘。彼女の『赤い霧』たる真なる強さ。それを聞いて、見て、ケセドは胸を掴まれるような苦しみを感じた。
「何を謝る事がある? 寧ろ、お前もここに……連れて来られていたのか」
だから例え社内の屋上でも、外に出るのは危険だ。フラフラ外に出るなどもっての他だ。当時、そう彼女に何度も注意されていた事を思い出す。
「うん、でも君みたいに強くもないし、皆みたいに知識もないからハズレなんだって。それで、助けを呼んでもいいって言うから、咄嗟に君の顔を思い浮かべてしまって……そしたら君が、ここに……」
「ふぅ、そういう事か。なら私で満足されるなら、お前は……助かるんだな」
咄嗟についた嘘だった。本来なら会ってはならない過去の赤い霧。だが、ここで死にゆく彼女には現代の自分だと錯覚させられたようだ。
「お前は……弱くてとろくさいから、必ず逃げろ。道化になってもいい、卑怯になってもいいから逃げろ。力なき者が逃げる事は、卑怯じゃない……。カハッ……ケホッゴホッ」
そう言って死にゆくカーリーが血の塊を吐き出す。それは流れ出ると同時に、キラキラの光になって飛んでいく。彼女の生をカタチとする、作られかけの本の方へ。
最初からこうするために過去の彼女を呼んだとわかっていても、ケセドの胸は張り裂けそうな程に軋んだ。それは、これからの未来で、調停者であるガリオンから卑怯にも皆を売ってしまった自分にも言えることだろうか。
直接的ではなくても、間接的に彼女の死を決定づけたのは自分だ。ずっとそう苛んできた。そんな事はないと本人に言われても、心のどこかで苛み続けている。
だが、このカーリーも同じことを言うのだ。かつてセフィラであった時に卑怯な臆病者だと彼をなじったゲブラーの姿は、ここにはない。
「俺は大丈夫だから! もしこれからダメになっても、必ずロボトミー社の皆で光を紡いで、世界を照らして見せるから。カーリーやカルメンが見たかった世界を実現して見せるから!!」
本当のロボトミー社は駄目だった。否、何が駄目と定義づけて、何が正しいのかすら、今のケセドにはわからない。
けれど、この彼女の力が必要で、本人も同意の上で呼ばれた過去の赤い霧だ。そんな彼女に少しでも救いを差し伸べたかった。
ここが未来であることを知らせるのは許されないだろう。けれど、少しくらいの希望なら与えられるのではないか。
だって、彼女は、たまにフラフラと会社を離れて散歩するような自分まで『守るべき対象』なのだと言ってくれたのだ。
それに、例え過去の関係がどうであれ、いま誰よりも愛している女性の過去である事に代わりはない。
「ああ、わかったよ。……だからもう、そんなにぐしゃぐしゃに泣くな。暢気で弱そうな顔が、もっと惨めなことになるぞ」
全身、切り傷や銃痕だらけなのに、彼女の声はとても落ち着いていて、ただただ細い。
「うん、ありがとうカーリー。俺は暢気に笑って、ちゃんと幸せな未来を掴むから。もう安心して、休んで……いいよ」
「ああ、後は……皆を……任せるぞ……」
それっきり、閉じた彼女の目は開かず。やがて眩い光に包まれると、血溜まりの中にぽつんと『赤い霧の本』が取り残されたのだった。
「ううう……。ううううう~…………カーリー~~~!!!」
ゲブラーの元に帰って来た彼は『赤い霧の本』を抱いて、思ったよりすっきりとした身なりで戻ってきた。彼女の血の多くは本の形成に使われたのだろう。
「だからアンジェラに行くなと言われただろう。べしょべしょの顔して……不細工極まりないな」
そう言いながらも、ゲブラーは優しくケセドの涙を拭ってやる。そのまま手を滑らせると、ゆっくりと頭を撫でた。
「だって、だって~~~!!!」
「過去の私は、最期まで最強に強くて聡明でかっこよかっただろう」
得意げに笑うゲブラーの顔を見て、ケセドは更に声を上げて泣く。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ~~~~ん!!!!!」
そのままゲブラーの肩に頭を預けて大泣きする男を、やれやれといった風に彼女はあやすしかなかった。
なんとなくこうなることを察した他の皆は、途中まで見守っていたが、今は席を外している。ビナーだけが遠くからこちらを見ていたが『赤い霧』を倒すにあたって『面識のない者』として対峙した最大の功労者なのだから、それくらい許されるだろう。
「だからって、大好きな君の死を看取るなんて、辛いに決まってるじゃないかぁ~! ばかぁ~うえぇぇぇ~!!!」
「真面目に答えれば私もお前もとっくに死んでいるんだがな」
たまたまセフィラにされて働いて、そしてたまたまセフィラだったからこの図書館の司書になった。とっく亡くなっている命なのだ。
「そういう事じゃなくってぇ、ううう……」
「はいはい。で、本はどうだった」
背中をぽんぽん、とあやすように叩くと、スッと引っ剥がされる。そのあたりゲブラーは本当に冷静、もとい冷めている。過去の自分が激情を散らしてビナーと戦う中、平気でローランに戦い方の助言していたくらいだ。
「私もそれは知りたいわ」
突如アンジェラが、一歩離れたところに現れる。こういう事態が増えて慣れてきた二人はさして驚かず、ケセドは大事そうに胸に抱えていた本を取り出した。
「それが……ぐずっ。俺ではどうも、読めそうにないみたいなんだ」
まだ嗚咽が混じっているが、アンジェラの手前、涙は引っ込める事にしたらしい。
「どういう事かしら」
ケセドから手渡された本を、アンジェラが受け取るが。確かにページが開かない。上に向けても下に向けてもピッチリと閉じられた姿のままだ。
「これを媒介にする為に過去の彼女を本にしたのだから、媒介にするにあたって問題がなければ別にいいのだけれど。彼女の力が使えないのはちょっと勿体ないわね」
「どれ、貸してみろ」
アンジェラからゲブラーに本が渡ると思いきや、本を立てた瞬間あっさりと本は開いた。
「開いたぞ」
「え……?」
「ほら」
だが、ゲブラーがケセドに再度渡すと、すぐさま本は閉じられてしまった。
「なるほど、赤い霧の本は赤い霧にしか使えない……と言うこと?」
「まぁ、本を持ったところで、あんな動きができるようになるとか到底思えないしね~……」
「そういう事らしいな」
「では、持ち手はあなたに任せるわ。媒介として必要になったらまた呼ぶから、それまで好きに使ってちょうだい」
アンジェラはそう言い残すと、スタスタと歩き去ってしまった。なんとも淡白だが、アンジェラらしいとも言える。残された二人と、遠巻きの三人目はそれを見送ると、ここに居てもしょうがないとそれぞれの階へと戻るのだった。
「はぁ、散々な一日だった……泣きはらしちゃって瞼が重いよ」
そう言いながら、上等そうなソファーにぼすりとケセドが体を沈める。
先程、自分の階に帰るはずのケセドを呼び止めたのはゲブラーの方だった。どうせコーヒーを飲んで落ち着くなら自分にも淹れていけ。そんな他愛ない誘いだったが、ケセドにはゲブラーがそれなりに気をかけてくれているのが分かる。
「まったく、過去の私が一人死んだくらいで」
ゲブラーはソファーに座らず、背もたれの部分に腰掛けると、パラパラと赤い霧の本のページをめくっている。大体は過去の自分のことなのだから飛ばし読みでもいいのだが、どういう書かれ方をしているか確認しているようだった。
「枝分かれした違う過去のカーリーでも、俺は悲しいよ」
それでもケセドは床に目線を落とす。今、思いなおしても悲しいものは悲しい。それが己の心の弱さだと言われても否定しないくらいにはしょげていた。
「大げさだ……と言いたいところだがな、ある意味、お前があそこで出しゃばって正解だったのかも知れんな」
「どういうことだい?」
ページをめくっていたゲブラーは、飛ばし読みながらも、何か確信しているようだった。
「過去の日記帳を読んでいるみたいであまり面白くはないから、かなり飛ばし読みしたが、先程の戦いがあった以上、最期の記述だけは必ず変わるだろう、と思ってな」
そう言ってめくっていた手を止める。
「ほらな、見てみろ」
ゲブラーが示したのは最後のページだ。そこにはアンジェラに会った時の思いや、激戦だった時の心境などが書かれている。
そして最期に「ロボトミー社の未来は何かあれども続いているのだろう。ならば、これからも続く皆の未来を切り開くために、私の持てる力を全て委ねることをここに誓おう」そう書かれていた。
「え、って言うことは……これ、えっと……バレ……てた?」
皆というのは、彼女が守ろうとしたL社の者の事だ。あそこで会ったのは、最期にあったケセドしかいない。そんな束の間の会話で、彼女は全ての力を本に託す事に決めたのだ。
「言っただろう。過去とはいえ、私は最強に強くて、そして聡くて賢いのだと」
「それはその通りなんだけど」
「顔なんぞ見なくても、お前が未来を生きているという事と、それを守るために自分が呼び出された事。だいたい全て見越していただろうな、死ぬ直前だけだろうが」
「ひぇぇ……やっぱり俺、マズイ事しちゃった?」
「いや、アンジェラの言っていた通り媒介になるなら問題ないだろうし。最悪、私でも開けなかった可能性もあるのだからいいんじゃないか?」
「そうなのかい?」
「あくまでこの本は『皆を守るため』に残された力だからな。おそらくお前も使えるぞ」
「え、ほんと!?」
思わず丸まっていたケセドの背が伸びる。大好きな彼女の本が使えたら、どれだけ幸せだろう。自分にもその資格があるとするなら、是非持ってみたい。
「ただし、あの私についていけるほどの強さを身に着けたら……だが」
先程までのしょぼくれた顔はどこへやったのか、きらきらした瞳で見てくるるケセドに、ゲブラーは淡々と返す。その顔はその言葉で、すぐに萎れていった。思わずゲブラーが顔を逸して吹き出す。
「え~~~~~!!! そんなぁ、ゼッタイ無理だよ~!!!」
瞬時に白旗をあげるケセドに、ゲブラーが意地悪くくつくつと笑う。
「元々常人には無理だろうし、能力的に足りていても敵と認識したビナーやローランでは無理だろうな。いい、問題ない。私が使う」
片手で本を閉じて、そっけなく机の上に投げる。大切な本になかなかぞんざいな扱いをするように思うが、己の本だからこそできる芸当だろう。
「君には戦ってほしくなんかないのに……フクザツ」
自分なんかより戦闘力を見込まれてL社にいたゲブラーの方が遥かに強いだなんてわかりきっている。だからといって戦いに常に身を投じて欲しいわけではない。守られていると知りながらも、自分だって守りたいのだとケセドは思う。
「平和主義のお坊ちゃまは、もっと強くなってから、そのセリフを言うんだな」
頭をわしゃわしゃ撫でられて、それでも悪い気はしないのだからしょうがない。せめて自分は、ゲブラーにできない事をしよう、そう気持ちを切り替える。イェソドほどの知能はなくても、頭脳戦ならそこそこ負けない自信もある。
「はぁい、精進しま~す」
「叶う日が来るかあやしい気合だな」
ケセドは目の前の机に投げられた本を丁寧に手に取ると、開くことのないそれに向かって優しく問いかける。
「ありがとう、過去のカーリー。俺たち、今度こそ……例え一瞬で終わる偽りの幸せでも、未来を掴み取って、いつか世界を光で照らして見せるからね」
追いかけた夢を夢で終わらせないように。
掴みたかった希望が真実になるように。
そう、今度こそ。今度こそは。
君と、みんなと、笑顔で未来へ行くんだ。
そんなこんなで赤い霧戦をやって暫くした後
突如として風呂の中で思いついたネタでした。やっぱり風呂は偉大(笑)
ケセドが相変わらずダメダメだけど、その分ゲブ姐がかっこよく書けた気がするのでいいです。
しかし、LoRは話が重いけど、ロボトミーコーポレーション好きにはほんと
たまらない続編というかファンディスク(にしては難しいぞ)なので
ほんとゲブケセありがとう!過去バナ楽しいーー!!!
ってなってたところに、いきなり赤い霧戦とビナネキの参戦でアツかったですね。
いや、LCもLoRも難しいし人を選ぶって自覚はあるんですけど
多くの人類にやってほしいゲームです。
ゲブケセにハマる割合は少ないと思うので、そこまでは求めませんけど!
良いパソコンをお持ちの方は是非……。
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